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R18 BL小説『 ESCAPE』(189)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
189ページ
更新しました。

*****

更衣室で制服に着替える頃には、もう本鈴が鳴り終わって、授業が始まっている。


教室とは別の場所にある、生徒一人一人に与えられているロッカーの中には、置きっ放しの教科書がいっぱい入ってたけど、


ーーもう必要ないし…。


鞄だけを手に持つと、静かな廊下を歩いて、昇降口から外へ出た。


正門の扉は、閉まっているけど、鍵が掛かっているわけでもない。


手をかけて軽く押すと、小さい音を立てて扉は簡単に開いた。


僕を引き止めるモノなんて、何もない。


駅まで続く石畳みの桜並木の道を、数メートル歩いてから、正門を振り返った。


学校になんて、なんの思い出もない。


なんの未練もない。


少しだけ寂しい気がするのは、来年の春に満開になる、ここの桜並木を見ることもなくなるからだ。



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R18 BL小説『 ESCAPE』(188)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
188ページ
更新しました。

*****

だけど覚悟していた衝撃はこなくて、代わりに


「何やってんだ。」と、聞き覚えのある声。


目を開けると、いつの間に来たのか、慎矢の振り上げた右手を掴む凌が立っていた。



「…凌…。」



「授業受ける前に煙草吸える所を探してたら、ここの扉が開いてるから覗いたらさ、なんか面白いことしてるじゃん。」



火の点いていない煙草を口に咥えたまま、ニヤニヤしながら、慎矢の顔を覗き込む。



「…離せよ。」



慎矢は、静かにそう言って、掴まれた手を振り解いた。



「ふふん、喧嘩でもしたか…。そろそろ伊織のことを持て余す頃だとは思ってたけどな。」




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R18 BL小説『 ESCAPE』(187)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
187ページ
更新しました。

*****

結局…


信じられる言葉が真実で、


信じられない言葉が嘘なんだ。


それで良いんだ。


僕はそういう風に生きてきたから、今更信じてもらえなくても仕方ない。


だから、僕なんかと関わるのは、もう辞めた方がいい。



「…どうして…。」


辛そうな顔で、悲痛な声が慎矢の唇から小さく零れ落ちる。


もう、そんな顔をしなくていいよ。



「どうして?そんなの決まってるじゃないか。慎矢じゃ僕を満足させることが出来ないからだよ。」



僕のことで、悩んだり哀しんだり怒ったりするのも、もうすぐ終わるから。



「ーーなんで、そんな風にしか思えないんだよ!俺はっ、」



怒りと哀しみが混じり合うように、声を震わせながら言いかけた言葉を遮るように、僕は容赦なく追い討ちを掛けていく。

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R18 BL小説『 ESCAPE』(186)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
186ページ
更新しました。

*****

「ちっ…気分悪い。行くぞ!もう授業が始まる。」



二人が体育倉庫から出て行って、暫くしてから、慎矢は漸く崩れた跳び箱を退かせながら立ち上がった。



「早く、服着ろよ。」



呟くようにそれだけ言って、僕に背中を向けたまま、此方を見ようとしない。


僕が服を着る間、慎矢は無言で崩れた跳び箱を積み直していた。



「なあ…、」



跳び箱を片付けたところで、慎矢は背を向けたまま、話し掛けてきた。



「…何?」



「その…キスマークって…、佐々木先生なんだろ?」



「……うん。」



慎矢に、それを誤魔化すことなんて、出来ない。



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R18 BL小説『 ESCAPE』(185)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
185ページ
更新しました。

*****

目の前の光景を、ただ呆然と見ていた僕の目と、慎矢の視線が重なる。


驚きと戸惑いの瞳に、僕は漸く我に返って、慌てて落ちている体操服を掻き集めて、胸に抱きしめて俯いた。


それくらいじゃ、露わになった肌を、


この汚れた身体を、隠しきれるわけもなくて…


顔を上げる事が出来ない。


ーーー見られてしまった…。


全身に散らばった、先生の痕跡を。


僕の醜い、欲の痕を。


慎矢には…慎矢だけには、見られたくなかった。


慎矢の視線が、身体中に注がれているのを感じて、居た堪れなくて、逃げ出したいのに動くことすら出来ない。


床に映る影が、ゆっくりと近付いてきて、慎矢が僕の前で屈み込む。


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