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R18小説『 ESCAPE』(149)イラスト





R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
149ページ
更新しました。

*****

どうせいつかは離れていってしまうのに。


大切だと思っているものを失うくらいなら、最初から手に入れない方がいいのに。



「俺は伊織のことを飽きたりしないよ。」



まるで子供にするように、慎矢は少し屈んで僕に目線を合わせて、頭を撫でてくれる。



「慎矢は初めて経験したことに一時的に熱くなって、それでそれを恋だと勘違いしてるだけなんだ。」



暖かい手の温度で、氷が溶けていくように、触れたところから、温かくなっていく気がしていた。



「俺は伊織のことを ちゃんと好きだよ。」



「僕のこと、何も知らないくせに。」



「知ってるよ。少なくとも昨日よりは知ってる。明日になったら、もっとお前のこと知ってる。」





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R18 BL小説『 ESCAPE』(148)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
148ページ
更新しました。

*****

一瞬、何を言われたのか理解できなくて、僕はただ呆然と慎矢の顔を見ていた。


慎矢の一点の曇りもない、澄んだ瞳が、僕を射抜くように見詰めている。


だけど…


僕のことを好きだなんて、そんな戯言を信じれるほど、僕は愚かじゃない。



「…あは…は、何言ってんの。しかも、多分ってなんなの。」



無理に笑った声もひきつってしまう。



「…笑うなよ。俺だってこんな気持ち初めてで混乱してんだ。だけど、これでも真面目なんだぞ。」



慎矢は顔を真っ赤にして、短い髪をしきりに掻き上げながら、恥ずかしそうに目を逸らした。


そんな告白をされたのは初めてで、なんだか胸の奥がこそばゆい。



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R18 BL小説『 ESCAPE』(147)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
147ページ
更新しました。

*****

周りを木々に囲まれた古い温室の中は、枯れた薔薇の枝が張って、光を遮っているけれど蒸し暑い。


ここなら誰にも話を聞かれる心配もないだろ?と言いながら、


慎矢は幾つかの、壊れそうな風通し用の小窓を押し開ける。


微かだけど風が中を通り抜けていった。



「こんな所まで来て、なんの話があるの。」



最後の窓を開こうと、少し無理な姿勢で腕を伸ばしている背中に問いかけると、


硬く閉じた窓を開くのを諦めて、慎矢は溜息をひとつ吐いて、僕を振り返った。



「伊織、さっき言ったよな?ヤりたくなったらいつでも相手してやるって。」



僕は「…言ったよ。」と、頷いてみせると、慎矢は足を引き摺りながら、ゆっくりと僕に近付いてきた。




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R18 BL小説『 ESCAPE』(146)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
146ページ
更新しました。

*****

「はっ?何それ、訳わかんない。」



心から笑ったことくらい…



「ないだろ?腹抱えて笑ったり、楽しくて笑ったりしたこと、少なくとも俺は見たことないね。」



「別に、そんなのどっちでもいい。」



僕が笑おうが、笑うまいが、ホントどうでもいい事なのに。



「ーー俺が伊織のこと、笑わせてやる。」



慎矢は手に持っていた箸を、弁当箱の上に置いて、僕の顔を覗き込むようにして、目を合わせてくる。



「それと、うちに泊まるのと、なんの関係があるわけ?」



「だからな、もっと伊織のことを全部知りたいんだ。」



「呆れた…まだ、そんな事を言ってんの?」

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R18 BL小説『 ESCAPE』(145)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
145ページ
更新しました。

*****

「…足、大丈夫なの?」



捻挫って言っていたけど、椅子に座って横に投げ出された右足は、制服のズボンの下から固定用のサポーターが見え隠れしていた痛々しい。



「ん?ああ、全然平気だよ。」



「もうすぐ大会があるって言ってたけど、出られるの?」



それまで、ずっと明るい笑顔を絶やさなかった慎矢の顔が、その質問には「…いや、出れない。」とだけ答えて一瞬曇る。



「…そう、残念だね。」



あんなに練習していたんだ。やっぱり表情に出してしまうほど、ショックなのは違いないと思う。


だけど慎矢は、すぐにまたいつもの笑顔に戻って「まあ、これでゴールデンウイークも自由の身になれたし、たまにはいいかと思ってるよ。」


そう言って、笑ってるけど、それが本心を隠した慎矢の強がりってことくらいは、僕にも分かる。



「明日から、ゴールデンウイークじゃん?伊織、なんか予定ある?」




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