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R18 BL小説『 ESCAPE』(184)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
184ページ
更新しました。

*****
あの時と似てる。


二人の顔が、あの時の男達とダブって見えた。


あの夜から、自分の周りが変わったと思っていたけど、


本当に変わったのは、周りじゃなくて僕。


あの時、父さんが僕を抱いたのは、あの夜のことを、僕に忘れさせようとしていただけで、


僕を愛しているからじゃない。


それでも何度も身体を重ねたのは、母さんが死んだあの日から、父さんは僕に母さんを重ねて見ていたから。


その事から目を逸らして、気付かないフリをして、寂しさを誤魔化す為に快楽だけを求めていた。


あんなに憎んでいたはずの祭りの夜の男に、僕は自分から逢いに行って…。


今の状況を作り出しているのは、紛れもなく僕の所為なんだ。


そしてきっとまた、大切に想うものを、ひとつずつ失くしてしまう。



「はっ、きっつ…」

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R18 BL小説『 ESCAPE』(183)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
183ページ
更新しました。

*****

窓から射し込む光が、僕の貧弱な身体に届いて、薄暗い空間に白く浮かび上がるように照らされる。


塵や埃が漂う中で、二人が驚いたような顔で、僕の肌に視線を落としていた。



「…はっ、驚いたな。本当にキスマークだらけじゃん……。」



からかうような台詞なのに、その声は低く掠れる。


何方かから、コクッと唾液を呑み込む音が聞こえてきた。



「…これ全部、慎矢が付けたのか?」



ーー慎矢?何を言ってんだろ、こいつら。


慎矢とは、あの雨の夜の一度きりなのに。



「馬鹿、どうせ慎矢だけじゃないんだろ?こいつ、誰にでも抱かせるって噂だぜ?」


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R18 BL小説『 ESCAPE』(182)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
182ページ
更新しました。

*****

こう言う場面は、今迄も何度もあったから、二人が何をしたいかなんて、聞かなくても分かる。


そう、大した事じゃない。だけど時々、嫌になるんだ…自分のことが。


あの夏の日からずっと、同じことの繰り返し。


こんなことをしていても、何かが変わるはずもないのに。


父さんが振り向いてくれるわけもないのに!


分かっているのに、どうしてもこうなってしまう自分。


慎矢がせっかく、僕をクラスに溶け込ませようとしてくれても、


今迄の自分がしてきたことは、そう容易くリセットできなくて。


そんな自分にウンザリしてるんだ。


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R18 BL小説『 ESCAPE』(181)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
181ページ
更新しました。

*****

「……うん。」



差し出されたライン引きを僕が受け取ると、二人は満足気に顔を見合わせて笑っていた。


「行くぞ。」と言って歩き始めた二人の後を、仕方なく黙って従いていく。


前を歩く二人は、時々小声で何か話していたかと思うと、大きな笑い声を上げながらふざけ合ったりしていて…。


それを見ながら僕は、小さく溜息を吐いた。


確かどちらかが、慎矢と同じ中学出身だったと思う。


騎馬戦の練習の集合時間に、慎矢が僕を引っ張ってきたのを見た時の二人の表情が頭を過ぎった。


きっと面白くないのだろう。


それに…ライン引きは一台しか無いのに、同じグループだからという理由で、わざわざ嫌いな僕も一緒にと言った意味は…。


そこまで考えて、またか…、と思ってしまう。

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R18 BL小説『 ESCAPE』(180)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第5章「陽炎」 
180ページ
更新しました。

*****

「おーい!慎矢!顧問が呼んでる!」


同じ陸上部員が遠くから呼ぶ声に、慎矢の考えたフォーメーションの動きを確認していた騎馬全体の動きが止まった。



「え?なんだよ。練習中なのに。」



不服そうな声が下から聞こえてきて、それがまるで母親にご飯だから帰って来なさいと言われた子供みたいで、笑いそうになった。



「行ってこいよ。フォーメーションの確認くらいなら、お前いなくてもできるから。」



後ろの騎馬役の多田に言われて、慎矢は渋々納得したように「ああ。」と応えた。


ゆっくりと騎馬を崩して、振り返り「ごめんな。」と僕に言う。



「いいから、早く行っておいでよ。」



僕がそう言うと、安心したように、あの太陽のような笑みを見せる。


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