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R18BL小説『 ESCAPE』(274)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
274ページ
更新しました。

*****

「ーー 鈴宮くん……」


 慌ててリビングに戻ってみれば、


帰ってしまった父親を追いかけようとしたのか、座っていた椅子が転がっているすぐ傍で、鈴宮は崩れるように床に倒れていた。


 さっき聞こえた声からして、顔を突っ伏した状態で、泣いているのかと思った。



「大丈夫か?」



 駆け寄って、そう声を掛ければ、ふっと顔を上げる。 鈴宮は、泣いてなどいなかった。


 だけど、虚ろに揺れる眼差しは、俺を見上げている ……と、思ったのに。


 細い肩に掛けようとした手は、よろりと立ち上がった鈴宮に躱されて、空を切る。


 弱々しく伸ばした手は、俺に向けてじゃなかった。



「…… 鈴宮くん?」



 俺の声など届いてはいない。


 鈴宮は、覚束ない足取りで歩き出し、リビングの入り口で、扉枠に一度手を突いて、玄関へと向かう。


 父親の後を追いかけようとしているんだ。



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R18BL小説『 ESCAPE』(273)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
273ページ
更新しました。

*****

 低い声で冷たく言い切り、凍てつくほどの鋭い視線で見据えられた。


 言おうとした言葉も、思わず呑み込んでしまう。



「では、失礼します。」



 そう言うと、固まってしまっている俺を冷ややかに一瞥して、彼はドアノブに手を掛ける。


 ーー 帰ってしまう。



「待ってください!」



 このまま、この人を帰してしまってはいけない。それだけしか頭になくて……。


 無我夢中で、出て行こうとする肩を、後ろから掴んで引き留めていた。



「…まだ、何か。」


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R18BL小説『 ESCAPE』(272)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
272ページ
更新しました。

*****

 玄関の前を通り過ぎ、突き当たりにある部屋は、リビングとは反対の位置にある。


 もう何が入っているのか覚えていない段ボールや、積み重ねた本。


 埃の匂いのする狭い部屋は、書斎にするつもりだったのに、今では物置きと化している。


 俺がこの部屋に入ってからまだ10分程しか経っていないのに、もうリビングの様子が気になって仕方ない


 何を話しているんだろうか。


 よく考えてみれば、鈴宮を迎えに此処に来たのに、俺には聞かせたくない話なんてあるのだろうか。


 そして、あまりにも静か過ぎる。


 いくらリビングと反対の位置にあると言っても、距離的にはそんなに離れている訳じゃないのに、物音ひとつ聞こえてこないのが気にかかる。



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R18BL小説『 ESCAPE』(271)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
271ページ
更新しました。

*****



「今、開けます。少しお待ちください。」


 インターフォンの通話を切って、鈴宮を見れば縋るような眼差しで俺を見つめていた。



「…… 父さんの…… 話って…何だろう。」



 何をそんなに怯えているのか、不安そうに声が震えていた。



「それは勿論…… 、帰ってくるようにと、話をしに来られたんじゃないかな。」



 鈴宮にとっては、大好きな父親が迎えに来てくれているのに。



「僕は…… 帰った方が良いのかな。それが一番良いのかな。」



  どうして、そんなに迷っているのか。



「それを知る為にも、ちゃんとお父さんと話をした方が良いんじゃないか? 」



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R18BL小説『 ESCAPE』(270)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPE」 
ペ270ージ
更新しました。

*****


 その時は、なんとなく憂鬱そうに見えた横顔も、


 帰りの電車の中では、口数は少ないけれど普段通りに思えたから、


 ふと胸を掠めた嫌な予感も、家に着く頃には忘れてしまっていた。


 *


「汗掻いただろう? 夕飯の支度する間に、先にシャワーしておいで。」



「別に後でも……。」



 鈴宮はいつも夕飯の準備や家事を手伝ってくれる。


 後でいいと素っ気なく断るのも、俺に遠慮しているのだと、毎日一緒にいて、鈴宮の性格も少しずつ分かってきていた。



「いいから、先にさっと浴びてきなさい。ほら。」



 汗で湿った髪に、そっと手を伸ばして指先で触れれば、ふわりと油絵具の匂いがする。


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