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R18BL小説『ESCAPE』完結しました。

R18/BL小説 『ESCAPE』

epilogue「至愛」 
324ページ
更新しました。


*****


「…… 伊織。」



 懐かしく低い声で、名前を呼ばれて胸が震えた。



「…… 父さん…。」



 そう言葉に出せば、体内の血が巡るのを感じる。


 伸ばされた手に、触れたい感情が込み上げてくるけれど…、



 ーー 違う、この手に触れてはいけない。 この感情は間違っている。


 だって、今の僕は、あの頃の僕じゃない。



 ーー『… なるべく早く帰りますね。』



 『いいから、ゆっくりしておいで。』ーー



 最愛の人の、優しい笑顔が胸を過っていく。


 だから、大丈夫。 心は迷ったりする筈はない。


 巻き付いてくる見えない鎖は、自分の力で解くことが出来る。






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★ ESCAPE完結いたしました。
約一年、お付き合いありがとうございました≦(._.)≧ ペコ

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R18BL小説『ESCAPE』(323)


R18/BL小説 『ESCAPE』

epilogue「至愛」 
323ページ
更新しました。

*****


『伊織、今どこにいる?』



「前に住んでた、僕の家の……、今、駅に向かう階段の途中だよ、慎矢。」



『あ~、そっかぁ。』



 慎矢の返事が、ちょっと、がっかりしたような溜息と共に、聞こえてきて、口元が緩んでしまう。



「どうかした?」



『俺、早くに着いちゃって、今、先生のマンションの近くまで来ちゃってるんだけど、花でも買った方がいいかなって思って。』


 ーー ひとりじゃ、なんか花屋なんて照れ臭くて… と続く。



「なんで花なの? 花屋さんに可愛い子でもいるわけ?」



 からかうように言うと、分かりやすいくらいに電話の向こうの声が焦っていた。



『ばっ、バカ! 違うってば。 ほら、先生は俺逹の就職や進学祝いって、言ってくれてるけど、先生だって秋に結婚するんだし、
お祝いにどうかなって…、』



「先生、男なのに、花なんて喜ぶかな……。どうしてもその花屋に行きたいんだね?慎矢は。」



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R18BL小説『ESCAPE』(322)

R18/BL小説 『ESCAPE』

epilogue「至愛」 
322ページ
更新しました。

*****

 この本は、僕が生まれた頃に書かれている。


 主人公と、女性の名前は違うけれど、確かにこれは、父さんと母さんの話だと思う。


 確かに、父さんは僕を愛してくれていた。


 もしかしたら、生まれた時から、一人の人間として。


 僕は、母さんの代わりなんかじゃなかったのかもしれない…。



「… なんてね。」



 全部、僕の妄想に過ぎない。


 タキさんからの手紙にはいつも、口には出さなくても、父さんは僕に会いたがっていると、ひとこと添えられている。


 本当にそうだろうか。


 父さんは、タキさんと暮らしている今が、幸福なんだと思う。


 タキさんは、父さんの仕事のマネージメントを含む、助手をしている。


 僕が、生まれる前からずっと。


 家政婦と、勝手に思い込んでいたのは、僕。


 そして、父さんが母さんと出逢うよりも、もっとずっと前から、


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R18BL小説『ESCAPE』(321)


R18/BL小説 『ESCAPE』

epilogue「至愛」 
321ページ
更新しました。

*****

 久しぶりに降り立った懐かしい駅は、


 あの頃、修復工事をしていた、木の温もりがあった駅舎も、もう昔の趣きは感じられない。


 中学へ行く途中に渡っていた、すぐ側の踏み切りも無くなって、いつの間にか高架になっていた。


 電車を降りて、改札を抜け、駅前にある横断歩道は、前は無かった信号機が、誘導音を鳴らしている。


 信号機が点滅する横断歩道を、走って渡ると、


小さな路地を入った数メートル先に、斜面に沿って続く、長くて急な石の階段がある。


 ずっと先にある女子大の学生が、『心臓破りの階段』と、嘆くのをよく耳にしていたっけ。


 この階段が好きだった。


 不揃いの幅の石の階段は、あの頃のままなのに、


 古くなって錆び付いていた手摺が、真新しくなっていて、太陽の光で、銀色に反射している。


 きっと、毎日ここを通っていたら気付かないかもしれないけれど、


 あれから、もうすぐ6年になる。 その間に、僕の好きだった景色も、少しずつ変わっている。


 あの頃、僕だけが変わってしまったと思ったりしていたけれど、


 時と共に変わっていくのは、周りも同じ。


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R18BL小説『ESCAPE』(320)


R18/BL小説 『ESCAPE』

epilogue「至愛」 
320ページ
更新しました。

*****

 
 好きな人と想いが通じ合うって、こんなに幸せなことだったんだね。


 あんなにいつも、何かが足りなくて、あんなにいつも渇いていたのに。


 愛って、どんな快楽よりも満たされる。


 少し開いたままだった障子の隙間から、そよ風が桜の花弁を運んで、シーツの上に落とした。


 ーー ああ…、廊下の窓を開け放したままだったな…って、ちらっと思う。


 高い塀があるから、見えないと思うけど、もしかしたら僕の声が、家の前の道まで聞こえてしまったかもしれないな。



「… ふふっ……」



 思わず口元を緩めてしまった僕に、教授が艶然と微笑んだ。



「… 思い出し笑いかい?」



 荒い息を吐きながら、優しい瞳が僕を見下ろしている。



「…… ん…、世界中の人に先生のことを自慢したいな…って……、ん…」



 そこまで言った僕の唇は塞がれて、律動が激しくなっていく。



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