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R18BL小説『ESCAPE』(317)
R18/BL小説 『ESCAPE』
epilogue「至愛」
317ページ
更新しました。
*****
居間と襖を隔てた四畳半の続き間には、小さな仏壇が置いてある。
本尊は置かず、略式だけれど、去年僕がこの家に暮らし始めた頃に、あの人が用意したもの。
その前に座り手を合わせると、不思議と心が落ち着く。
ーー 故人の死を受け入れ、故人が確かに存在していたことを忘れないように。
彼は、そう言っていた。
「母さん、今日は藤野先生と慎矢に、会う約束をしているんだよ。」
手前に置いてある、母さんの写真に、話しかける。
「…… その前に、あの家に行ってこようと思うんだ。」
目の前の母さんの写真は、『… そう、気を付けて行ってらっしゃい。』と、微笑んでくれているような気がする。
それから僕は、その隣の写真に視線を移す。
写っているのは、どこかの高校の制服を着た会ったことのない少年。
「潤さん、庭の桜が綺麗に咲いていましたよ。」
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R18BL小説『ESCAPE』(316)
R18/BL小説 『ESCAPE』
epilogue「至愛」
316ページ
更新しました。
*****
新しい生活は、今までのことが嘘のように穏やかに、普通に過ぎていった。
転校した高校では、誰も僕の過去を知らない。
転校生が、珍しがられて注目を浴びるのは、最初だけ。
なるべく目立たないようにしていれば、その内クラスの中で、空気のように馴染んでいける。
僕は相変わらず人付き合いは苦手だったけれど、それでも少ないけど友達もできた。
その事を慎矢に言うと、「親友は俺だけだからな。」なんて、自信満々に笑うんだ。
転校してからも、慎矢とは時々会っていた。
彼が大会に出る時は、応援しに行ったりして。
凌と隆司は、無事に同じ大学に合格したと、藤野先生が教えてくれた。
父さんとは…、あれからずっと会っていない。
再婚して、タキさんの家で暮らしていると、時々送られてくるタキさんからの手紙で知った。
岬の父親は、煩く干渉してくることはないけれど、いつも近くで見守られているような、安心感があった。
だけどまだ…、この人を名前以外で呼ぶことができないでいる。
心の中では、もうとっくに認めているのに。
穏やか過ぎる退屈な日々は、とても心地よくて、嫌いじゃない。
でも……、時折、何か物足りない気がしていた。
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R18BL小説『ESCAPE』(315)
R18/BL小説 『ESCAPE』
epilogue「至愛」
315ページ
更新しました。
*****
窓の外の景色は、僕の生まれ育った街から離れ、車は、海沿いの高速道路に入っていく。
やがて、見慣れない景色が流れ始め…、それで漸く目頭が熱くなってくる。
「… 伊織?」
隣に座っている、僕と血の繋がっているという父親が、心配そうに顔を覗き込んでくる。
ーー『… 本当は、一番大切に思っていらっしゃるんですよ。』ーー
本当に僕は……
父さんの大切なものになりたかった……。
一番大切な…、ずっと…… 永遠に大切なものになりたかったんだ。
「伊織…、電車で二時間ほどで、いつでもまた帰って来れるし、言ってくれれば車で送ってあげることもできるから。」
ーー 帰って来れるし…
そんな風に気遣ってくれる言葉に…、
そっと抱き寄せてくれる優しい手に…、
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R18BL小説『ESCAPE』(314)
R18/BL小説 『ESCAPE』
epilogue「至愛」
314ページ
更新しました。
*****
先生が取りに行ってくれたキャンバスを、窓の横に立て掛けて、僕は部屋をぐるりと見渡した。
胸に押し寄せてくる思い出を振り切るように、鞄の中に身の回りの物を適当に詰め込んだ。
部屋のドアを開けると、窓からの爽やな風が抜けていく。
カタンと、何かが倒れた音に振り返ると、勉強机の上のメモスタンドに挿してあるペンが、風になびいたカーテンに当たって転がっていた。
勉強机に近付いて、転がっているペンを元の位置に戻せば、意識は、一番上の引き出しに引き寄せられた。
本棚に隠してあった鍵を取り出して、久しぶりに引き出しを開けると、あの夏の日に入れた時のまま、母さんの写真立ては、裏を向けた形で引き出しの中にあった。
『ごめんね、母さん……。』
こんな所に入れて隠して、僕は母さんの代わりになろうとしてたんだ。
なれる筈もないのに。
母さんの写真も、鞄の中にそっと入れて、僕は今度こそ部屋を後にして、玄関へ向かった。
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epilogue「至愛」
314ページ
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先生が取りに行ってくれたキャンバスを、窓の横に立て掛けて、僕は部屋をぐるりと見渡した。
胸に押し寄せてくる思い出を振り切るように、鞄の中に身の回りの物を適当に詰め込んだ。
部屋のドアを開けると、窓からの爽やな風が抜けていく。
カタンと、何かが倒れた音に振り返ると、勉強机の上のメモスタンドに挿してあるペンが、風になびいたカーテンに当たって転がっていた。
勉強机に近付いて、転がっているペンを元の位置に戻せば、意識は、一番上の引き出しに引き寄せられた。
本棚に隠してあった鍵を取り出して、久しぶりに引き出しを開けると、あの夏の日に入れた時のまま、母さんの写真立ては、裏を向けた形で引き出しの中にあった。
『ごめんね、母さん……。』
こんな所に入れて隠して、僕は母さんの代わりになろうとしてたんだ。
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R18BL小説『ESCAPE』(313)
R18/BL小説 『ESCAPE』
epilogue「至愛」
313ページ
更新しました。
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久しぶりに帰った家は、引き戸を開けると、真夏だというのに、相変わらず、涼しい風が北の窓から、玄関へと流れてくる。
『ただいま…。』
小さい声で、そう言うと、タキさんが慌てた様子で台所から顔を出した。
『伊織坊ちゃん…、おかえりなさい。』
今にも泣きそうな顔で、タキさんはそう言って出迎えてくれる。
『…… 父さんは?いる?』
『はい、書斎に、いらっしゃいますよ。』
昨日、岬の父親が、連絡してくれているはずだったから、もしかしたら、父さんは僕に会わないように、家には居ないんじゃないかと、少しだけ心配していたけれど。
ーー 居てくれた。
タキさんの言葉に返事をするのも忘れて、僕は急いで靴を脱ぎ、書斎へと向かう。
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313ページ
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久しぶりに帰った家は、引き戸を開けると、真夏だというのに、相変わらず、涼しい風が北の窓から、玄関へと流れてくる。
『ただいま…。』
小さい声で、そう言うと、タキさんが慌てた様子で台所から顔を出した。
『伊織坊ちゃん…、おかえりなさい。』
今にも泣きそうな顔で、タキさんはそう言って出迎えてくれる。
『…… 父さんは?いる?』
『はい、書斎に、いらっしゃいますよ。』
昨日、岬の父親が、連絡してくれているはずだったから、もしかしたら、父さんは僕に会わないように、家には居ないんじゃないかと、少しだけ心配していたけれど。
ーー 居てくれた。
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