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R18小説『 ESCAPE』(123)



R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
123ページ
更新しました。

*****


「………。」


顔なんて見なくても、誰だか分かる。


きっと、昼休みになっても、屋上に来ない僕のことを、探しにきたんだ。


「伊織、呼んでるけど、いいの?」


「…うん。」


どうせ返事なんてしなくても、凌なら、例え下級生の教室でも、勝手に入って、一番奥の窓際の席まで来るに違いない。


僕は、仕方なく、食べかけの弁当に蓋をした。


「伊織、なんでこんな所で食べてるんだよ。」


凌は、僕達の座ってる席まで来て、そう言った。


僕の顔を見てから、慎矢へ視線を移して、睨み付けている。



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R18小説『 ESCAPE』(122)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
122ページ
更新しました。

*****

「あれ?伊織が弁当持ってくるの、珍しいな。」


昼休み、タキさんが持たせてくれた弁当箱を鞄から出すと、慎矢が驚いた顔をしている。


「それに、教室で食べるのも珍しいよね?」


「…そうだね。」


いつもは、凌達と屋上で食べる事が多かったから。


「じゃあ、今日は一緒に食べよう。」


そう言って、慎矢は弁当箱を持って、自分の椅子を、ガタガタと音を立てながら移動させてくる。


「慎矢の弁当箱大きいね。」


僕の机の上に置かれた、慎矢の弁当箱の大きさに吃驚した。




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R18小説『 ESCAPE』(121)



R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
121ページ
更新しました。

*****

僕が降りる駅は、僕が通う高校以外にも、多くの学生達が利用していることもあって、


朝の時間帯は電車が着くと、いっせいに電車を降りる人達で、ホームから出口まで混雑する。


その人混みの中に、一際背の高い凌の頭が後方に見えていた。


ブリーチで赤っぽい髪の色が遠くにいても目立っている。


その派手な色が、人混みを掻き分けて、どんどん近付いてくるのが分かる。


「おい、伊織っ」


背後から呼び止められたのは、駅を出てすぐのところだった。


僕は、肩越しに振り向いて「おはよう。」とだけ挨拶をして、また前を向いて歩く。


「なあ、なんでいつもの車両に乗らなかったんだよ。」


そう言いながら凌は、僕の隣を歩く先生と反対側に回り込むようにして、肩を並べた。




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R18小説『 ESCAPE』(120)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
120ページ
更新しました。

*****

「いいえ、まだ連絡ありませんよ。」


「でも、出版社の担当さんに訊いたら、何処にいるかくらいは分かるんじゃないかな。ほら、今、エッセイ連載してるし。」


「緊急以外で、出版社にまで連絡をしてはいけないと、言われているんですよ。」


その言葉に、毎朝、胸の奥がツクンと痛む。


「…大丈夫ですよ。取材旅行だと仰ってましたし、またすぐに帰ってこられますよ。」


タキさんから返ってくる言葉は、いつも同じだし、僕が問う内容もいつも同じ。


でももうそれ以上、訊くことは出来なかった。


タキさんの本当に困っている顔が、僕には辛いから。


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R18小説『 ESCAPE』(119)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第4章「背徳」 
119ページ
更新しました。

*****

父さんの居ない日々は、少しずつ僕の心を蝕んでいくように思えた。


もう朝なんて、来なければいいのに………。


何度そう思ったか分からない。


本当は高校になんて、父さんに行きなさいと言われなければ、行くつもりもなかったのに。


学校になんて、行きたくない。


嫌なのに…。学校に行く意味が僕には見出せなかった。


だけど、行かなければ、あの担任は、またこの家にまで来る。


そうして、土足で踏み込んでくるに違いない。


この、父さんと僕の領域に。


仕方なく重い身体を起こしてベッドの上に座る。




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