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R18BL小説『 ESCAPE 』(306)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
306ページ
更新しました。

*****

 学校は今日も休日で、活気溢れる部活の声も聞こえてこない。


 昨日と同じ場所に車を停めて、閉まったままの門扉の前に立って、携帯を取り出した。


 どうしても伊織を一人で帰らせる事が心配で、途中、適当な駅で伊織を降ろした時に、この携帯を持たせようとしたのだけど…。



『伊織、これ、持っててくれないか。』



『先生、心配し過ぎ。』



 助手席のドアを開け、半分降りかけていた伊織は、肩越しに俺を見て、呆れた声でそう言った。



 ーー もう今頃は、鈴宮の家に着いた頃だろうか。



 なんて、無意識のうちに鈴宮の家に電話をしようとしている事に気付いて、自嘲してしまう。


 本当に、心配し過ぎだ。


 ーー そうだ…、彼に連絡しておかないと。


 一旦、鞄に入れようとした携帯を、もう一度握り直して、大谷のアドレスを呼び出した。


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R18BL小説『 ESCAPE 』(305)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
305ページ
更新しました。

*****


「お願い?」



 そう訊き返せば、伊織は、うん、と小さく頷く。



「家に戻ったら、少し荷物の整理をしたくて… だから、あの絵を、学校に取りに行って欲しいんだ。」



「ああ、あの絵。そうだね、じゃあ君を家まで送って行って、そのまま学校に取りに行くよ。」



 咄嗟に頭の中で、岬さんが迎えに来る時間までに、俺が学校に行って戻ってこれるか計算をする。


 ーー ギリギリ間に合うってとこか……。


 だけど、伊織は小さく首を横に振って、「違うんだ。」と言う。



「僕、一人で電車で帰りたい。だから、何処か途中の駅で降ろして欲しいんだ。」



「え……? いや、でもそれは……、」



 それは、何となく心配だった。


 伊織が、あの家にひとりで行って、それでもし…、何かあったら……。


 それもあるけれど、もう一つ心配なのは……。


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R18BL小説『 ESCAPE 』(304)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
304ページ
更新しました。

*****

 その夜は、真綿でくるむように大切に、腕の中に、華奢な身体を閉じ込めて眠った。


 初めてこうして眠った時、あんなに不安定だった魂は、今はこんなに落ち着いている。


 まだ解決し切れていない想いもあるかもしれないけれど、きっともう、雷に怯える夜はこない。


 満ち足りた寝顔が、そう言っているように思えた。


 俺は……、なんだか、明日巣立っていくヒナを見守る親鳥のような気分だった。



 ***



「ーー 伊織!」



 朝、目が醒めたら、腕の中にいるはずの伊織の姿がなくて、


 俺は、慌てて飛び起きて、リビングへのドアを開いた。


 その瞬間、昨夜セットしておいた炊飯器から、御飯が炊き上がる匂いが鼻腔を擽る。


 トントンと、小気味良く聞こえてくる包丁の音。


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R18BL小説『 ESCAPE』(303)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
303ページ
更新しました。

*****

 暫く続く沈黙の中で、強くなってきた雨風の窓を打ち付ける音だけが、二人の間に流れてくる。


 遠くに雷鳴が小さく聞こえている。



「これからは、もっと広い世界を見ることが出来るんだから、俺なんかに縛られなくても良いんだ。」


 これから君は、少しずつ色んなことを経験して、成長していく。


 相手を信じて、想い、愛 寄り添う。そんな関係の人と巡り合えるように。


 
「でも、僕は…、もう誰かを好きになんてきっとならない。」



「そんな事はないよ。俺に愛されてるって、分かったんだろ?」



 そう問えば、伊織は少し間を置いて、小さく頷いた。



「じゃあ、大丈夫だよ。」



 そう言って、俯いている伊織の頭をくしゃくしゃと掻き混ぜるように撫でた。



「…… もう…、先生には会えないね。」



 そんな風に言われたら、抱きしめたくなってしまう。


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R18BL小説『 ESCAPE』(302)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
302ページ
更新しました。

*****

 寝室のドアをそっと開けると、ベッドサイドの淡い灯だけが点いていて、


 もうとっくに寝たと思ってたいた伊織は、ベッドの端に腰掛けていた。



「どうした?眠れないのか?」



 ベッドに歩み寄りながら声をかけると、伊織は声に出さずに、うん、と小さく頷いた。


 隣に腰を降ろすと、ベッドのスプリングが、キシリと音を立たせて僅かに揺れる。


 伊織は、隣に座った俺の方へ、ゆっくりと顔を向け、上目遣いに見上げてきた。



「このまま、此処で暮らすという選択肢は、ないのかな。」



「…… え?」



 それは、思いも寄らない選択肢だった。


 伊織が、そんな事を考えていたなんて。



「… 先生は、僕が居なくなっても寂しくない?」



「…… それは……、」


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