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R18Bl小説『 ESCAPE』(301)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
301ページ
更新しました。

*****



「… 岬さん… 分かりました。その言葉に安心しました。」



 少しだけ… 寂しいと思う自分もいるけれど、伊織にはきっと、この人が必要なのだと思う。



「失礼な質問をしました事を、どうぞお許し下さい。」



「そんな、どうか、頭を上げて下さい。」



 立ち上がって頭を下げる俺に、岬さんは「伊織のことを親身に考えて下さって、本当にありがとうございます。」


と、声を掛けてくれていた。


 だけど俺は、本当に何かしてやれたんだろうか。


 この人に、こんな風に言って貰えるような事は、結局何も出来なかったのに。



「あの……、」



 そんな大人二人の様子を、ずっと黙って見ていた伊織が、突然立ち上がり、


 伏せ目がちに、どこか言い難そうに言葉を切り出した。


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R18BL小説『 ESCAPE』(300)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
300ページ
更新しました。

*****


「他に、どんな選択肢があるの。」



 そう言って、伊織は俺に目を合わせた。


 
「…… それは…。」



 伊織の言う通りだ。 伊織にはまだ保護者が必要で、鈴宮の家であの父親と暮らすよりは……、岬の家に引き取られる方が良いと思う。


 高校に通って、出来れば将来の進む道を見つけて進学し、そして社会に出て…、色んな人と出会って、色んなことを経験してほしい。


 この子が、鈴宮の家に戻るという選択をしたら、俺は止めなければいけないだろう。


 だけど、伊織の瞳は、何かを迷うように揺れているように思える。


 俺はこの、岬 一哉という人物を、詳しく知っているわけではない。


 ただ、伊織とは血の繋がった肉親だという事以外は、何も知らない。


 俺も……、心の奥では迷って揺れている。


 このまま、伊織をこの人の所へ行かせていいのか。


 …… いや、それは、建前かもしれない。


 本当は、俺が…、行かせたくないんだ。 出来ればこのまま此処で一緒に暮らせたら…なんて、考えてる。


 ずっと俺の手の届く範囲で、伊織を置いておきたいと思っている。


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R18BL小説『 ESCAPE』(299)


R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
299ページ
更新しました。

*****

「お腹空いたね。でも、帰ったら、まずシャワーを浴びたいね。」


 マンションに着いて、そんな会話をしながらエレベーターを降りる。


 エレベーターホールから通路に出ると、俺の部屋の前の手摺壁に、誰かが凭れて立っているのが見えた。


 一瞬、鍵を掛けていない事を思い出して、ドキリとするが、その人物がゆっくりと此方へ顔を向けて、その不安は薄らいでいく。


 代わりに、得体の知れない焦燥感みたいなものが込み上げてくる。



「…… あ…。」



 俺の後ろを歩いていた伊織が、その人に気付いて、声を上げるよりも早く、俺は、その人が誰なのか分かってしまった。




「はじめまして…。 岬 一哉(みさき かずや)と、申します。」



 そう名乗った男は、深々と頭を下げた。



 確かに伊織は、母親に似ているのだろう。


 この人の顔のパーツ、ひとつひとつは、どこも伊織には似ていないように思う。


 それでも、この人が伊織の実の父親だと分かったのは、


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R18BL小説『 ESCAPE』(298)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
298ページ
更新しました。

*****

 静かな美術室の中は、二人の吐く荒い息遣いに混じり、壁に掛かっている大きな時計の針が、時を刻む音が響いていた。


 まるで、今まで止まっていた時間が、突然動き出したかのように思える。


 外からは、相変わらず強い風の吹く音が聞こえてくる。


 時々、気まぐれに、窓ガラスを揺らして。


 此処に来た時と、何も変わらない… なのに、何故だろう。


 とても静かで、落ち着いた気持ちに浸っている。


 腕の中で、身体を弛ませている伊織の汗に濡れた髪に鼻先を埋めながら、

俺は、この心地よさをもう少しだけ感じていたいなんて、願ってる。


 身体を離してしまうと、途端に消えてしまいそうな気がしていた。


 ふと、視線を前に向けると、伊織の描いた 記憶の中の春の景色が視界に入った。



「…… 絵、完成したんだね?」



「…… うん。」



 短く応えて、伊織は少しだけ密着していた身体を離して、肩越しに春の景色へ視線を廻らせた。


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R18BL小説『 ESCAPE』(297)

R18/BL小説 『ESCAPE』

第7章「ESCAPEⅡ」 
297ページ
更新しました。

*****


「ーーあぁ……!」



 その瞬間、伊織は、目を固く瞑り、背中を弓なりに反らす。


 一際高い嬌声が、俺の鼓膜を揺さぶった。


 お互いの吐く息が荒い。


 伊織の身体は、一段と上気して、白い肌を薔薇色に染めている。



「…… 伊織…、」



 肌に纏わり付いてくる、熱気がさっきよりも暑くて……。


 額から、滴り落ちた汗が、伊織の薔薇色の頬を濡らしていた。



「苦しくないか?」



 濡らしてしまった頬を指先で拭いながら問うと、伊織は、硬く閉じていた瞼を、ゆるりと開き、俺を見上げた。



「大丈夫……。」



 そう言うと、頬に触れていた俺の指に指を絡め口元に運び、触れるだけの短いキスをする。


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